「本当のこと」を伝えない日本の新聞 双葉新書刊 を最近珍しくいっきに読んだ。

著者はニューヨークタイムズ東京支局長のマーティン・ファクラー氏で日本取材歴12年の日本通のアメリカ人。
日本人が好きということが伝わって来る。
だからこそ3.11以降前にも増して顕著になった日本のジャーナリズムの
陥っている異常さに危機感をいだいてこの本を書くに至った。

ひとつの例として東電福島原発事故直後からSPEEDIの存在を知っていた記者たちがいたにもかかわらず、
政府が発表しないことに対して追求しなかったことを挙げる。

実は地震の影響で不具合はあったにせよ、
事故当初から仮のデータを使ってSPEEDIにより試算は行われ放射性物質が飛んで行く方向は予測されていた。

米軍には外務省を通じて3月14日にデータが提供されていたにもかかわらず、日本国民にはそれらが示されなかった。
本来なら新聞社は国からすぐに公表されないことを不審に思い紙面で訴えなければならなかったのではと述べる。

5月2日になって細野豪志首相補佐官が試算結果の未公表について
「国民がパニックになることを懸念した」と政府の本音を口にしたそうだが・・・。
では何のために巨額を投じてSPEEDIを用意したのか?

もしジャーナリズムが国民の側に立っていたならもっと早くからデータを国民に開示させて
無用な被曝をさけることもできたかと思うと、あらためて報道の質と力の重要性を再認識する。

世界でもめずらしい「記者クラブ」という存在も政府からの伝達機関となりやすく、
新聞、テレビ、通信社などの主要メディアの記者たちが所属し海外メディアやフリーランスの記者は
所属できないので政府の記者会見場に入れず独自に取材するのだという。

そのため主要メディアはどこも横並び的な内容になるのだという。
著者は記者クラブとは何かを正確に理解している日本人は少ないのではないかと述べている。

TPPや原発や改憲などのとりわけ重要な問題に登場する世論調査は
きっと横並び的にマスメディアが伝えているのだろうが、あの円グラフによって
この多数意見に弱い日本人の国民性に与える影響を考える時、ついため息が出てしまう。
私は今まで見て来た円グラフのほとんどに「えー?なんでそうなるの」と驚いてきた万年少数派だ。

私自身いまだ良くわからないのに7割もの人がTPPに賛成のアンケート結果だったりするが、
そんなにたくさんの人がTPPについて勉強し理解しているとはとても思えない。
憲法についても然り。

不思議な事は多々あれど、何はともあれ「記者クラブ」この存在は理解しておいたほうがいい。
若い気概にあふれる記者もこの日本独特のシステムによって情熱をそがれることがないように願う。
いや、むしろ報道の公平性を保つためにも記者クラブは解体されるべきだと思う。

ジャーナリズムの重要性、それは先の戦争で開戦のためにあるいは大本営発表で果たしたマスコミ
の役割をみれば明らかなように、
あまりに高い割には意外と私たちは見落としてしまっているのではないか。

そんなことを喚起させてくれた一冊。

変わらなくちゃね、日本も。