翌日グレーヴェの広場で毎週土曜日に開かれるメルカート(マーケット)に行く。
その活気、子供からお年寄りまで親しく人々が「チャオ!」と声をかけあう。
台所用品から花から着るもの、食べ物まで大抵の生活に必要なものは揃いそうだ。

その後、グレーヴェから10kmほど離れたパンツァーノという小さな村で
ルカ&ワンリご夫婦と待ち合わせをする。

彼らはここに住むアーティストで絵や造形など多彩な作品を制作していて、
ワンリさんは日本人で精神疾患の施設で絵の指導などもしている。
娘がこの写真の肉屋兼レストランで彼らと偶然知り合ってからのお付き合いだそうで
私たちを引き合わせてくれたのだった。

ワンリさんと話をするうちワンリさんの友達の日本人シェフの話になり、
その人が現在東京の西荻窪で「29」という人気イタリアンレストランを経営していると聞いて驚いた。

この春私が神奈川に住む友人と会った時に「今友達がイタリア料理でブレイクしていて」
と聞いたその人のことだったからだ。

そのシェフがその昔パソコンの学校に入ろうとした時に私の友人が
「お前は食べることが好きなんだからそっちじゃないだろう」
と言ったひとことがきっかけとなり進路を変えて食の修行を始め、
イタリアまで行き腕を磨いて自分の店を持つまでになったのだそう。

人の運命というのはどういう人と出会うかでまるっきり変わってしまう。
だからこそ人生はおもしろいとつくづく思う。

ワンリさんはまた日本の原発事故についてもとても心を痛めていて
イタリアからも署名を集めたりできることをしようとがんばってくれている。
原発のことは全然楽しい話題ではないけれど、やはりこんな遠くに来ても
同じような感性で何とかしなければと現実と向き合っている人がいるのを知ることは
とてもうれしい。ありがたい。

さて、私たちがランチを共にしたのはこの写真の肉屋についているレストラン。
ランチタイムということもあり満席だが運良く座れてとても安くおいしい料理を味わった。
丘の上の村なのでトスカーナのなだらかなブドウ畑や落ち着いた赤い屋根の家々が見渡せる。

このお店「アンティカ・マチェレッリア・ディ・チェッキーニ」は普通のお店とは
ちょっと違うらしい。
世界的に有名らしいのだが、以下抜粋。

「数年前、イタリアを狂牛病の嵐が吹き荒れ、多くの肉屋がつぶれた。
そしていよいよ骨付き肉の販売が翌日から規制されるという日に、
店主のダリオは行政への抗議や消費者の啓蒙など、いろいろな意味を込めて、
村でフィオレンティーナ(フィレンツェ風Tボーンステーキ)のお葬式を大々的に行った。
彼のトレードマークの深紅のバラに包まれ、
本物の棺桶に入れられた肉は、その後
エルトン・ジョンなどトスカーナを愛する有名人が多数参加したチャリティオークションに
かけられ、収益はすべて地元の子供病院に寄付された。」


(イタリアのおいしい旅 スローフードガイドブック 池田律子著 阪急コミュニケーションズ刊より)

このあたりの気候は良質なワインのためのブドウ栽培に最適で、
村で年一度大きなワイン祭りがありアーティストのルカはその飾りつけを任されているのだそう。
噴水の周りの鉄筋のオブジェもルカが作ったもので村人の憩いの場となっている。
彼らのアトリエも見せてもらったが「楽しいってことがとても大事です」とルカが言う。
二人とも素晴らしい芸術家だ。
出会えたことに感謝!