ねぼけまなこながら、珍しく良いニュースが朝刊に出ているのを見た。
国連総会で「先住民族の権利に関する国連宣言」が、起草から22年を経て
賛成多数で採択されたという。
これを受けて日本政府がどう対応するかをよく見ておきたい。

そんな一日の始まりだったので、
ここで、友人が書いたもので
とても美しく印象に残った文章があるので、
旭川市博物館の「みゅじあむ」という冊子から転載、
紹介させていただきます。


     『祈りの象徴』
 
 アイヌ女性の施した刺繍には、観る人を魅了する力があります。
それは、単に美しさに心を奪われるのではなく、
その衣装にも紋様にも魂が宿っているからなのです。
 
「アイヌの衣文化(岡村吉右衛門著)」によりますと、
アイヌの衣服の総称に『アミプ』『チミプ』とがありますが、
その意味は、アミプ<ア(人間が)ミ(着る)プ(もの)で、
これには、国別、性別、仕立ての違いなど含まれておりません。
チミップ<チ(我々~外国人に対して私達アイヌ~)ミ(着る)プ(もの)『我々アイヌが着るもの』ということだそうです。
こういったことから伝統的なものと、そうではないものの区別がなされていた事が伺えます。
 
よく『アイヌは自然とともに生き・・・』というように、
のんびりと暮らしていたような印象を受けますが、
自然界の中には多くの危険が潜んでいます。
その摂理を越えて生き抜いていかなければならなかったのです。

雪がとけると、女たちは山菜を採集し、厳しい冬に備えて保存食を貯え、
着物や茣蓙などの材料を採集・加工し、家族の身の回りのものを作るというように、
寸暇を惜しむ忙しい日々の連続だったのではと想像します。

アイヌの人びとに伝えられている物語りには、
男性は彫刻に、女性は刺繍に没頭する場面がしばしばありますが、
それは時間があるからするのではなく、
それぞれの役割をきちんと果たしているように想えます。
アイヌ女性が、気の遠くなるような時間を費やして、美しく丁寧に創りあげたその着物自体が、
着る人を守護し、かかる危険や災難に対して威嚇する力を有します。
 
“美とはある種の衝撃を受けること”
と何かにありましたが、
アイヌ女性が深い祈りを込めて創りあげたものからは、まさに不思議な衝撃をおぼえます。

アイヌ社会では、結婚の条件に心懸けがいいことも重要な決め手になりますが、
逆に、邪念を持ってしまうようでは生き延びられないことを暗示しているのかもしれません。

そんなことを考えながら、アイヌ紋様の前に佇むと、
そこには内省を促すような静けさが広がり、
浄い心を保つようにと淡い光が放たれているように感じられます。
アイヌ紋様には、身につける人を守護することだけに留まらず、
神々の意志が現されているのかもしれません。